前回の“店主のくりごと”へ 第6回 新春ほろ酔い対談 2001 店主VS吉見 “スターの条件”ってなんですか? 吉見 新年明けましておめでとうございます。 店主 おめでとう。「鎌倉キネマ堂」のお客様、今年もどうぞよろしくお願いします。 早いもので昨年の2月3日にオープンしてかれこれ1年ですな。 吉見 ええ早いもんですね。まあ色々ありましたが、今回は新春と云うことで店主を引っ張り出 して、何時も言いたい放題の店主にこちらから色々と聞いてみたいと思うのですが。 店主 おまえ何を企んでるんだ? 吉見 企むなんて、人聞きの悪いことを云わないで下さいよ。 実は前回の「映画スターに見る戦後日 本映画黄金時代」に対する質問やそれまでの回に関する質問が色々来ているんですよ。そこで 去年の“店主のくりごと”を総括していただこうと思うんですが。 店主 何が総括だ。わたしが云いたいことを云えばいいって云うからやってんだよ。この忙しい中を。 吉見 まあ、そんなにむくれなくってもいいじゃないですか。それだけ読んで下さってる方がいるって云う事ですよ。云いっぱなしはいけません。云いっぱなしは。 店主・・・別に云いっぱなし・・(横向いてタバコを吸っている。どうも機嫌が悪い。) 吉見 まあそんなにムスッとしないで下さいよ。気楽にいきましょう。正月ですから、まあ一杯やりながら楽にいきましょう。楽に。(店主の好きな辛口菊正のぬる燗をすすめつつ)ところで店主、前回の「年度別八大スター出演リスト」付録のあれですが、あれはなんで各年5作品なんですかね。 店主 何云ってんだよ。お前があまり(HPの容量が)大きくなると重くなるから、とか何とか云うからわたしは泣く泣く年五本に絞ったんだよ。もっともっと載せたいのが一杯あったんだよ。それでなくてもあんな面倒なもんを作れ作れってそそのかしておきながら今更何を云ってんだ。 吉見 いやいや、私がどうこう云ってんじゃないんですよ。お客様からそんな質問があったから・・・ お客様は神様だ!って店主いつも云ってんじゃないですか。 店主 そうだ!お客様は神様だ! 三波春夫は偉大だ! 永遠だ! 神様だ! 吉見 何だか、もう酔っちゃったんですかぁ。店主トシだからすぐ酔っちゃうんだもん、まだ対談始まったバッかですよ。たのんますよ。酒やめましょうか。 店主 うるさいね!お前は。正月だろ、ええっ。もっと注げよ。その一升瓶ごとこっちへよこせよ。ケチっ! 吉見 ケチって事ないでしょ! もう駄目だなこりゃ。店主っ、今日はやめましょうか。これじゃ対談になりませんよ。単なる飲み屋での意地汚い会話になっちゃいますよ。 店主 何云ってんだ。わたしは酔っちゃいないよ。今日やんないともう出来ないよ。云っとくけど、わたしは明日からやたらと忙しいんだからね。雅子様のご出産のお祝いに皇居に行ったりとか、いろいろと。 吉見 それじゃぁ、飲んでバッカいないで、ちゃんとわたしの質問に答えて下さいよ。 店主 うん、分かった。それでなんだって? 吉見 それでですね。あの付録の一年5本の選抜の基準て何なんですか? 店主 選抜? 高校野球じゃないんだから。何かいいようはないのかねぇ。だからわたしはあそこで、これはあくまでも私観であります。と云ってるでしょう。 吉見 私観は分かってるんです。その私観のをお聞きしたいんですが。 店主 ふ〜ん、そうか。あれはだね、要するにあの戦後日本映画黄金時代を背負って立った、各映画会社の代表的スターを採り上げたんだよ。当時はあれらのスターを見たくて映画ファンは映画館に通ったんだな。そこで各映画会社別に動員力のあるスターをわたしなりに、あくまでも私観で選んだんだよ。文句あっか? 吉見 いや別にわたしは・・・。でもあれを読んだ方の中には、何であの人が入ってないんだとか色々と・・・ 店主 うん。そりゃ有るでしょう。そりゃ。だからあくまでも私観でとシツッこく云ってるのです。わたくしは。 吉見 そう云われるともう何も云えないんですが、例えばですよ。例えば鶴田浩二さんなんてやはり当時大変なスターだったんじゃないんですか? 店主 うん。そりゃ〜ぁ。鶴田浩二と云やぁ大スターですよ。でも、しかし、だがね、あの人は松竹で昭和23年に大曾根辰夫監督の「遊侠の群れ」でデビューしてから昭和35年に東映の専属となるまでは東宝、新東宝、大映と色々な会社の映画に出演しているから、一つの会社を背負って立ったスターとは云えないんじゃないかと思うんだよね。三船敏郎だって東宝がフランチャイズだけど大映で「羅生門」に出たり松竹や新東宝にも出ているけどこの場合は黒澤明監督の関係によるもので基本的には東宝な訳だよ。 吉見 ああなるほど、そうですね。そう云われりゃ。しかし何ですね。 店主 何が、何ですねだよ。 吉見 いやぁ。その・・女優さんがいませんですね。なぜか。 店主 うん。そこだよなぁ。今のテレビのアイドル時代と違って、やはり当時は男が主役の映画が圧倒的だったよね。何てったって時代劇で女が主役の話なんて殆んどないしなぁ。現代劇で女が主役って云っても、母ものとか「ひめゆりの塔」とかくらいで、あと文芸ものやホーム・ドラマ中心の松竹映画で「君の名は」の岸恵子の真知子くらいかなぁ、女が主人公と云うのは。岸恵子は確かに大スターになったよね。なんてったって、真知子巻きを流行らせたんだから。しかしだからと云ってその後、彼女主演で幾つも映画が作られた訳ではないよね。それに彼女はこれからと云う時にフランスの映画監督イヴ・シャンピと結婚して日本を去っちゃったんだから、松竹を背負って立った大スターとはいかなかったんだな。ここがお前さんの云う選抜に漏れたと云うことだな。 吉見 あ〜ぁ。なるほど。だからあの八大スターのリストに松竹が入っていない。つまり、女優が育つ松竹から大スターが出ないと云うことですかね。 店主 ふ〜む。まあ、そう云うことなのかも知れんな。 吉見 あっ、そうだ!永遠の処女。そうです。原節子さんは大スターでしょ。どうです? 店主 うむっ、原節子・・・。こりゃ、大スターだよ。間違いなく。しかし、何だな。 吉見 えっ、何が、何なんですか? 店主ッ。 店主 何だよ、お前は。鬼の首を取ったようなカン高い声出すんじゃないよ。もう酒ないのか酒は。 吉見 まだ有りますよ。まだ。さぁどうぞ、グッとやって下さい。グッと。 店主 う〜む。いいね。うまいねこの酒は。ええっ。何だい、銘柄は? 吉見 さっき云ったじゃないですか。菊正ですよ。店主の好きな。 店主 おぉ、そうだ。そうだね。吉見君。 吉見 何云ってんですか。原節子はどうなっちゃうんですか。原節子は。 店主 どうもならないよ。それより、もう酒ないよ。酒。吉見ちゃん。 吉見 何が吉見ちゃんですか。誤魔化さないで下さいよ。原節子をどうしてくれるんです。 店主 うるさいね。お前は。からむ気かい?目が据わってるよ。眼が。 吉見 目なんて据わってませんよ。鼻は座ってるって云われたことありますけどね。 店主 ふ〜む、ホントだね。お前さんの鼻は座ってるね。座ってるよ。うん。 吉見 いいじゃないですかヒトの鼻のことなんか。はぐらかさないで下さいよ。原節子はどうしてくれるんですか。 店主 お前、しつこいね。原節子が好きなのかい? 吉見 ええ、好きですよ。大好きです! 何とかしてくださいよ。何とか。 店主 おっ、今度は目がなみだ目になってきたよ。 吉見 うるさい!店主は原節子をバカにするんですか! ええっ。 店主 いやっ、バカになんてしてませんよ。原節子は確かに大スターです。 吉見 じゃあどうして、どうして、ここに入ってないんですか。ここに! 店主 つまりだね。原節子は大スターです。大スターだけど原節子の映画だから見に行こうと云ってお客さんが集まったか。そして原節子の映画は客が入るからと彼女の主演映画がどんどん作られて彼女がその映画会社を背負って立ったかと云うとだね。どうだろう、そうはならなかったんだな。スターとしてブロマイドは売れたかもしれないよ。だけど、わたしが選んだ大スターってのは、あくまで客の入る主演作品をどれだけ撮ったかと云う事、そしてそれによってどれだけその会社を儲けさせたか、要するに本当にその会社を背負って立つ存在であったかと言うことなんだな。吉見君、分かってくれる? 吉見 ブツ、ブツ・・・ 店主 何だよ。うつむいちゃって。要するにだ・・・ 吉見 分かりましたよ。要するに当時は女性が主人公の映画があまり作られなかったと云うことなんでしょう? 店主 うん。今でもそう多くはないが、やはり女優さんは美しく、優しく、儚くそっと主人公を慰め陰で支えると云うのが受けたんだろうな。まあしかし黄金時代のもう殆んど末期には藤純子の「緋牡丹お竜」や梶芽衣子の「さそり・シリーズ」なんて恐ろしく強い女主人公の映画が出て来て凄くヒットはしたけど、そう長くは続かなくて会社を背負って立つまでには行かなかったよね。 吉見 そうですか。店主の云う大スターとはあくまでも興行成績が人一倍にあり持続性のあった人と云う事ですかねぇ。 店主 うむ、まあそーゆう風に云われると何だか味も素っ気もないけど、それが大スターの大条件じゃないかとわたしは思うんだね。そしてやっぱり、一世を風靡するようなカリスマ性を持っていなけりゃ駄目なんだよ。 吉見 なるほどねぇ。今そんな大スターはいませんね。 店主 テレビ時代になってスターが茶の間にホイホイ出てきて、タレントとかアイドルとか呼ばれるようになってからは、かってのような雲の上の人と云われる大スターは生まれなくなったんだよね。 吉見 そうですねぇ。茶の間に寝転がってタダで見れるんですからねぇ。 店主 そうなんだよ。銭を払ってあの暗い映画館の銀幕にのめり込んで手に汗を握って見た映画と茶の間のテレビとはぜんぜん違うんだよ。今だって映画館はいっぱい有るけどレンタルビデオかなんかで見る人が多いいんじゃないの。 吉見 ええ、わたしも良く見ますけど。 店主 わたしだって見るよ。それはそうゆう時代になった、つまり文明の進化によるライフスタイルの変化だからしょうがないんだろうけどね。 吉見 だから大スターが生まれないんですかね。 店主 うん、でも大スターは生まれてるんだよ。ただ映画からは生まれにくいだろうな。遊びや楽しみ方が当時とは比較にならないほど多様化してきているから、いろんなスターが生まれているわけだよ。アニメやゲームのキャラクターだってスターだし、野球のスターは昔からいたけどメジャーでのイチローみたいなスターやサッカーのスターとか、まあいろんな分野でスターは生まれてるよね。でも老若男女誰でも知ってるスターなんていなくなっちゃったな。特に歌手なんかもう誰が誰だか分かんないよな。 吉見 そうですねぇ。テレビでやたら茶の間に出てても誰もが知ってるスターと云うといませんよね。まあイチローくらいかなぁ。でも何だか話がどんどん映画から離れて行っちゃいますね。 店主 そうだなぁ。スターを語れば語るほど映画から離れちゃうんだから悲しいよ。 吉見 まったく寂しい限りですね。何か正月から湿っぽくなっちゃいましたが・・・ 店主 そうだよ。新年早々イカンなぁ。だから「鎌倉キネマ堂」はあくまでも日本映画にこだわり、あの良き時代の香りがする本を少しでもファンの方々にお届けしたいと頑張っておるのです。まあ映画館ではなかなか上映してくれない映画も今ではBS放送やビデオで観る事が出来るようになったんだから、まあ考え様によってはいい環境になったとも云えるんだよ。 吉見 そうですね。それに最近ではシネマ・コンプレックスッて云う複合映画館が増えてきて収容人員はそんなに大きくはないけどスクリーンの数は増えてきているって云いますね。 店主 うんそうなんだな。そんな中から又新しい良い映画も生まれつつあるようだし、映画人口がこうして増えてゆけば又新たな映画黄金時代がやって来るかもしれないしな。そう悲観したもんでもないかもしれんよ。 吉見 そうですね。なんとなく明るい方向に話が向いたところで今日はここまでとしましょうかね。店主。 店主 何だもう終わりか? これじゃぁ、去年の総括にならんよ。いいの? 吉見 ・・・だってもうお酒ないから・・店主だんだん機嫌悪くなると怖いもん。 店主 しょうがないなぁ。酒ぐらいタンと用意しとけよ。しかしどうも中途半端な対談になってしまったけどいいのかなぁ。 吉見 ええ。確かにチョット何ですね。しかし酔っ払ってグチャグチャになるよりいいんじゃないですか。 店主 何がグチャグチャだ! 吉見 ほら、もうかなり来てますね。ではこの辺でわたしは失礼します。 店主 オイ、オイもう帰っちゃうのかよ。話もそうだが酒も中途半端じゃないか。ええッ。 吉見 店主では、良いお年を。 バタ〜ん。(これ以上はヤバイと思い、素早く店主宅を飛び出してこのページUPのため私は一目散に我が家に向かったのです。2001年12月31日午後10時49分でした。) 皆様よいお年をお迎えのことと思います。 |